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売れない時代に経営者はどう対応すればよいか




 成熟化した社会ではモノやサービスがすみずみまで行き渡っていることから、売上増大に腐心されている経営者の方々は非常に多いと思います。


 取り扱っている商品あるいはサービスが市場のニーズにマッチしていないとか、競合激化の状況にあるにもかかわらず、営業攻勢に経営資源を集中すると消耗戦になります。


 このような場合は、市場を注視し、その動向を良く見極め、競合状況(大企業進出の有無、価格競争の見通し等)を良くチェックして自社の強みを活かせる分野・事業領域(商品・サービス、地理的市場等々)を冷静に探索することが必要となります。


 
敵を知り、己を知れば百戦危うからずの諺のように、市場と競合企業をよく研究し、自社の強みを錬成し、先を見通し、消耗戦を避け、自社が戦って勝てる分野に進出するといういわゆる経営戦略の発想が今日ほど必要とされる時代はありません。

 
 このページでは売れない時代に積極的な企業家精神をもって市場に挑戦している事例を中小企業白書からご紹介しましょう。

  2009/7/6  経営相談室   





売れる商品作りに向けた中小企業の取組
(出典:中小企業白書2009年版)


 これまで、顧客ニーズの把握の重要性や、電子商取引や海外戦略といった販路開拓の手法について見てきたが、最も重要なことは、中小企業が、把握した顧客ニーズをどのように活かし、「売れる商品」を作っていくかである。本項では、過去にヒット商品を生み出した中小企業と、ヒット商品に恵まれない中小企業の取組を比較することにより、「売れる商品」作りに向けたヒントを探ることとしよう。


T・レビットは、「企業が売ろうとするものが、売り手によって決まるのではなくて、買い手によって決まる、(中略)、売り手は買い手からの誘導によって動くのであり、売り手のマーケティング努力の成果が製品になる。決してその逆ではない」としている。T・レビット(2007)p.19参照。また、P・コトラーは、「今日では、物を売るという古い概念―「宣伝して販売する」―ではなく、顧客ニーズを満たすという新しい概念でマーケティングを理解しなければならない。」としている。P・コトラー(1999)p.7参照。


(1)ヒット商品の現状
 第2-2-26図は、「市場攻略と知財調査」をもとに、ヒット商品の開発に成功した企業の割合を示したものである。それによると、従業員数100人以下の企業では、約4割がヒット商品に恵まれているが、従業員数が100人を超える企業や、300人を超える企業では、ヒット商品に恵まれた企業の割合は高くなっている。


第2-2-26図 ヒット商品の有無の状況(従業員規模別)
~従業員100人までの規模ではあまり差がないものの、100人を超えると規模の大きい企業の方がヒット商品は生まれる傾向にある~
第2-2-26図 ヒット商品の有無の状況(従業員規模別)


 また、ヒット商品を開発し、市場に出し、黒字化するまでの期間について見てみよう。第2-2-27図によると、中小企業は、開発、市場化、黒字化の各期間について、大企業より早期に到達していることが見てとれる。特に開発期間に関しては、中小企業では、ヒット商品が3年未満で開発される場合が多く、大企業よりも相当短い期間となっている。


第2-2-27図 ヒット商品を生み出すまでに要する期間
~中小企業は、開発、市場化、黒字化の全てにおいて、大企業よりも早く達成している~
第2-2-27図 ヒット商品を生み出すまでに要する期間


(2)売れる商品作りに向けた取組
 それでは、ヒット商品の開発に成功した中小企業は、どのような取組を行っているのだろうか。
 第2-2-28図を見てみると、「モノ作りとサービスの融合」を行っている中小企業は、ヒット商品が多くなっている。これは先の第1項で見たとおり、顧客との直接の接点を有することによりニーズを把握しているためと考えられる。


第2-2-28図 モノ作りとサービスの融合の状況(ヒット商品の有無別)
~ヒット商品が生まれている企業は、モノ作りとサービスを融合した活動を行っている傾向にある~
第2-2-28図 モノ作りとサービスの融合の状況(ヒット商品の有無別)


 次に、輸出を行っていたり、海外拠点を設けていることとヒット商品との関係を見てみると、輸出を行っている中小企業や海外拠点を有する中小企業の方が、ヒット商品に恵まれた企業が多い傾向にある(第2-2-29図)。これは、業績の良い中小企業は「国内・海外問わず」新規販売先を獲得している企業が多いこ

とも示唆するように(前掲第2-2-6図)、仮に中小企業が顧客のニーズに合致した商品を開発した場合、内外を問わず、多数の販売先を有することが、売上の増大につながりやすく、ヒット商品となりやすい可能性を示唆していると考えられる。


第2-2-29図 海外進出の有無とヒット商品の関係
~海外へ輸出している企業や拠点を持つ企業ほどヒット商品が生まれている企業割合が高くなっている~
第2-2-29図 海外進出の有無とヒット商品の関係


 また、新たな商品や技術の開発に当たり、外部と連携している企業の方が、ヒット商品に恵まれている企業の割合が高い(第2-2-30図)。経営資源の乏しい中小企業は、新たな商品や技術の開発に当たって、外部の資源を有効に活用することがヒット商品の開発につながりやすいことを示唆している38


第2-2-30図 連携の有無とヒット商品の関係(従業員規模別)
~新たな商品を生み出すに当たり、すべての規模において外部と連携している企業の方が、ヒット商品が生まれている傾向にある~
第2-2-30図 連携の有無とヒット商品の関係(従業員規模別)


38 中小企業の連携については、中小企業白書2008年版第3部第3章も参照。また、連携を行う相手については付注2-2-12参照。


(3)売れる商品作りに向けて企業が重視する市場との関係
 第2-2-31図は、中小企業が消費者ニーズの把握に当たり重視している市場のタイプごとに、ヒット商品が生まれている企業の割合を示したものである。それによると、「ニッチ市場」を重視している企業の方が、「マス市場」を重視している企業よりも、ヒット商品に恵まれている企業が多い。


第2-2-31図 消費者ニーズの把握に当たり重視する市場とヒット商品の関係
~国内・海外のニッチ市場を重視している企業の方が、ヒット商品が生まれている企業が多い~
第2-2-31図 消費者ニーズの把握に当たり重視する市場とヒット商品の関係


 (4)売れる商品作りに向けた差別化
 中小企業が、新たな商品や技術を開発するのに当たり、他社との差別化を図ることが重要と考えられるが、第2-2-32図は、ヒット商品を生んでいる企業とそうでない企業で差別化のポイントがどのように異なるかを示したものである。ヒット商品を生み出している企業は、「儲ける仕組み(ビジネスモデル)」、「ブランド力」、「

企画提案力」といった点を差別化している。同図では、「技術力」が、ヒット商品を生んでいる企業とそうでない企業で違いをもたらす差別化の要素となっていない点が注目に値する。中小企業は、技術力だけでは同業他社との差別化の決め手とすることは難しく、「儲ける仕組み(ビジネスモデル)」、「ブランド力」、「企画提案力」といった要素を差別化の要素に加えられるかが重要である可能性を示唆していると考えられる。


第2-2-32図 ヒット商品の有無別商品差別化要素
~ヒット商品が生まれている企業は、儲ける仕組み(ビジネスモデル)やブランド力、企画提案力、商品力、アフターサービスといった点を差別化の要素としている~
第2-2-32図 ヒット商品の有無別商品差別化要素


事例 2-2-9 独自の企画提案力で、海外展開を行う企業の「ブランド力」強化を図る中小企業
 東京都中野区の株式会社コムセル(従業員24名、資本金1,000万円)は、韓国人、米国人、香港人を含む社員24名が世界各地の提携先とともに、マスメディアを介さず、独自のノウハウが詰まったパンフレット、

売り場デザイン、ポスター等のPRツール、さらにグローバルマーケティング戦略における本社と現地会社の役割分担を明確化する「マスターイン・アプリケーションシステム」といった独自のノウハウ等を用いたマーケティング戦略を提供している、広告・マーケティング代理店である。
 

同社が開発するグローバル展開用のマーケティング・ツールは、例えば、ある製品をブランド化して売り込む場合、その製品のコアコンセプトとなるコピーと高級感のあるキービジュアルで表現した「マスタービジュアル」を作成し、ポスター等のロゴや色調は統一する一方、写真等については、販売先の国の子会社や代

理店等が、販売先の国の国民性や商慣行などを考慮して、自由に選択できるようにしている。こうしたツールの開発が、各国代理店等の参加意識を喚起し、有効なフィードバックを得るという好循環を生み出している。
 同社は、広告マス媒体の力の低下という時代の流れを早くから見極め、販売現場から遡って売るための戦略立案を行い、海外市場でのマーケティングの経験を蓄積してきた。そうした同社ならではの緻密なノウハウが詰まったマーケティング・ツールを武器に、海外展開を行う企業がブランドを一層浸透させ、ブランド

力を発揮させていく支援をしている。
 同社の顧客は、これまではサムソン、東芝、パナソニック等の大手企業が多いが、中小企業にとってもブランド力の重要性が高まっていくことを見据え、マスターイン・アプリケーションシステム等も活用しつつ、今後、中小企業との取引の開拓も進めていく方針である。
独自のノウハウが詰まったマーケティングツール
独自のノウハウが詰まったマーケティングツール



事例 2-2-10 製造業から「ラボラトリー・エンジニアリング」というサービス業へコア事業を転換させた中小企業

  東京都千代田区のオリエンタル技研工業株式会社(従業員97名、資本金1億円)は、従来は、科学・医薬分野、バイオテクノロジー分野等における研究・実験用の設備・機器の製造・販売を行っていたが、それだけでは価格の勝負になることから、研究室や実験室に最適な仕様を有する設備に関するコンサルティングやプラニングという、これまでにない事業領域へとコア事業を転換させた企業である。
 

同社の強みは、長年、設備機器メーカーとして蓄積してきたノウハウと、研究者のニーズへの理解力を背景に、「ラボラトリー・エンジニアリング」、「ラボラトリー・デザイン」というコンセプトの下、ラボの安全性に配慮した最適な研究室や実験室の設計・提案を行うアレンジ能力である。自前の技術に固執せず、海外の有

力メーカーとの業務提携を通して積極的に最先端の技術を導入し、ラボデザインに活かしている。また、2005年に東京大学医科学研究所に寄付講座を開設し、さらに2009年には東京農工大学工学部との共同研究をスタートさせ、最先端技術を手がける研究者のニーズを把握することで、コンサルティングやプランニングの能力の向上を図っている。
 

付加価値の源泉を見極めてニッチな事業領域を開拓した上で、大学との交流を通して把握した研究者のニーズと、海外の最先端技術の導入や同社の技術力をマッチングさせ、新たな価値を創造していく総合力が、同社の競争力となっている。
研究者のニーズを活かした「ラボラトリー・デザイン」
研究者のニーズを活かした「ラボラトリー・デザイン」